大塚宣仁について

経営者の夢を守る存在に

初めて担当した10億円企業

私が経営支援の仕事に進んだのは、銀行員時代のある出来事がきっかけでした。

銀行員2年目、私は法人融資の担当になり、日々営業活動に取り組んでいました。

「大塚、この会社を担当してみるか?」

年間10億円の売上を持つ中古車販売会社A社です。事業規模が大きい会社の担当になれば、融資で動せる金額が大きくなります。

「大きい金額の融資を取り扱えるぞ!」私は意気込みました。

「自分をどうやって社長に売り込もうか」「他の銀行に負けない良い提案を考えよう」そんなことを考えてワクワクしました。

しかし、担当になり、A社の財務状況を知って驚きます。
前任者の時に、借入できる限界までお金を借りていて、追加融資など全くできない状態になっていたのです。

社長は、人徳のある素敵な方でした。ですから、私は折りに触れて訪問し、社長の夢や今後の事業展開、少年野球の監督の話などを聞かせてもらうようになりました。ご自宅に遊びに行って、奥様と娘さんを紹介していただいこともあります。娘さんは一人っ子で、その頃、小学校4年生だったと記憶しています。

「お金が返せない」

ある日、社長から電話が入りました。

「お金が返せない。売上金が入金されないんだ」

A社は、オークションで買った車を東南アジアに輸出していました。その売上金が回収できないと言うのです。

「回収できない金額はいくらなんですか?」

「3億円」

3億円がまるまる焦げついている・・・

法人融資の業務は「推進担当」という貸付をする役割と、「回収担当」という回収をする役割の2種類があります。
私はそれまで推進担当しか経験がなく、初めて返せなくなったお客様の対応をすることになりました。

社長は住宅ローンも借りていました。「倒産したら家も処分することになる」奥様と娘さんの笑顔が目の前に浮かんできました。

「倒産だけは、どうしてもくい止めたい」

とにかく話を聞き、銀行に報告して、今後の方針を考えることになりました。

銀行は晴れた日には傘を貸すが、雨の日には貸さない

お金を回収する時の銀行の対応を、ドラマで見たことがあるかもれません。銀行が、猛烈な勢いで「返してくれ」と責め立てる。あれは決して大げさなのではなく、本当に起きることなのです。
今まで「社長、うちを使ってくださいよ」「うちで借りてくださいよ」と言っていた人たちが、いきなり「経営改善計画書を出して下さい」「日時の資金繰り表を出してください」「返済計画について示して下さい」と、まさに手のひら返し。

社長は、日を追うごとに疲弊していきました。

私が、「本部にこういう資料が欲しいと言われているんですけど、ありますか」と言って訪ねた時、社長は疲れた顔で言いました。

「そんな資料はない。他の銀行からも言われているから作りたいけど、何を言われているかさっぱりわからないんだ」

話してみると、資金繰りの意味も、粗利がどういうことなのかもわかっていなかった。
その日、他のアポイントがなかった私は、図や表を使いながら財務の説明を始めました。

2時間ほど過ぎた頃でしょうか。社長は明るい顔になり、「そういうことだったんだね。それなら銀行に『こうして返済していきます』って説明資料が作れるよ。がんばるよ」と元気を取り戻したかに見えました。

もっと早く知り合っていたら・・・

その直後です。社長は突然、大粒の涙を流して泣き出しました。

「悔しい。俺は一生懸命頑張ってきた。利益も出してきた。なにか悪いことをしたわけではない。銀行に返済ができていないのは確かに悪いけれど、まるで犯罪者のように取り扱われて、さんざん罵声を浴びせられる。」

「少し前まで、銀行の支店長は『困ってる時はいくらでも貸すよ。社長の事業を応援しているから、いつでも力になるから』と言っていた。
何百社、何千社と会社を見て来た支店長が、俺のことを認めてくれている。そう思ったら心底うれしかった。だからその言葉を信じて、本当は借りなくてもいいお金まで借りたんだ」

「それで今、一番困っているのに、支店長は出てこない。こういう状況になったとたん、鬼のような担当者に責められて、俺は本当に悔しい」

その後、2回ほど社長にお会いして、私は他の支店に転勤を命じられました。社長を直接サポートできなくなってしまったのです。そして、A社が倒産手続きに入ったという話を転勤先で聞きました。

もっと早く知り合えていたら、もっと深く入り込んでいたら、もっといろいろなことを伝えられていたら・・・

社長は今も精力的に事業に取り組めていただろう。奥様や娘さんの暮らしもしっかり守れていただろう。社長のまわりで幸せになる人が、たくさんいたにちがいない。
銀行員としてサポートできた限界が、非力な自分が無性に悔しかった。そして、その悔しさは、時間とともに信念に変わっていきました。

経営者の夢を守る存在になる。

日本では、年間10万社以上の企業が設立されています。10万社の会社が出来るということは、10万人の経営者が、夢を抱いて事業を始めているということです。
しかし一方で、企業の生存確率は、5年後15%、10年後6.3%、20年後0.3%と非常に低いものになっています。それほど、会社を存続させるのは難しいことなのです。

悩んでいることがあれば話してほしい。手遅れになる前に、問題が起きてしまう前に私のところに来てほしい。そして、幸せな未来に向かって大きく羽ばたいてほしい。

私は、経営者の夢を守る存在になりたい。この思いが、私の経営支援の原点となっています。

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